この頭脳明晰だがすこぶる口の悪く、人当たりのよくない同期に罵られるのは慣れているシュリだったが、聞き捨てならないとばかりにかみついた。
「お前、じゃあ怨霊だの幽霊だのが絶対いないって誓えるのか!?この世界には『魔』もいるんだぞ、そういう輩がいたっておかしくないだろ」
「幽霊のような人の『思念』が姿をもって現れるなんていういい加減な迷信と、我らと同じように肉の身を持ち、敵対する地下とはいえ国を築いている者を一緒にするな」
いつのまにか、陽の光がすこし傾きはじめているのに気付いたアスナイは、話は終わりだとばかりに馬の足を速めた。
「でもよ、アスナイ―」
あわてて並走しながらなおも食い下がるシュリ。
不満そうに唇を尖らせるこの赤髪の同期を、ついにアスナイは氷点下の微笑で睨みつけた。
「そんなに幽霊話が好きなら」
まったく笑っていない紺色の瞳が、いらだたしげに細められる。
「焦らなくても、キトニの街の宿で一晩中きかせてやるぞ」
