デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

「………そうだね。私、ひどい事してるね。やっぱり、きちんと帰るつもりでいないといけなかった。皆が優しくしてくれるから、ついずるずる居てしまったの」

カナンはふと、酒場の喧騒が遠くなった気がした。

目を伏せた桜の小さな声と一緒に、一瞬、その姿だけがふっとぼやけていくような感覚に陥った。

世界から、桜だけが消えていくような。



ガチャン!


食器の音を立てて立ち上がり、テーブルの向こうの彼女の手首をつかんだ。

「カナン?ど、どうしたの」

思わず目を丸くして、小刻みに震える相手を見つめる。

その緑の目は、恐ろしさに見開かれ、揺れていた。

ぎゅうっと、手首をつかむ手に力を込める。

「ダメだ…。帰るなんて。もう、お前は我が君や私の告白を受け入れてるんだ。ここが、この世界がお前の帰る場所になったんだ。お前がいた国なんか、もう無いんだ!」

真っ青な顔で言った。

「カ…カナン、でも」

「約束しろ。絶対に、もう帰る方法なんか探さないと。約束するまで離さない」

「………」

「桜!」

唇を噛んでから、桜は言う。

「そんなすぐには、思いきれないよ。何もいいことなかったけど……故郷だもの。ここに来て初めて、自分の国の良さがわかったりもしたもの」