デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

「さて。次はそなたの番だな」

にっこり笑って、台の上に笛を置いた。

(うっ………)

この笛のあとに歌えというのか。嫌だ。嫌すぎる。

「あのう……どうしても歌わなきゃ、ダメですか」

恐る恐る聞く桜に、無情にも王はうなずいた。

「そういう約束だ」

「何でもおっしゃることを聞くと言っても?」

「………」

――何でも……

一瞬グラッと来たが、それを抑えて頭を振る。

「ダメだ。できぬなら、明後日の外出はあきらめるのだな」

「うう……それは嫌……」

仕方ない。短い歌を歌おう。

何を歌おうか考えている桜を、楽しげに見る。

別に、上手かろうが下手だろうが、どうでも良いのだ。桜の声で、歌ってくれれば。一生懸命歌う姿は、きっといじらしくて、可愛らしいだろう。

桜は思う。
この人は自分の腕を平凡と言っていたが、これで平凡なら自分の歌は田んぼのカエルだ。

(……あ)

ふと、一曲が頭に浮かぶ。もう100年も前に作られた、美しい日本語の歌だ。