デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

無理だ。ほんとに、デブスには無理だ。

可愛い反応なんてものも返せないし、大人なやり返し方も分からない。ただ翻弄されるだけなのだ。

とにかく、やめてもらわねば。
心臓発作で、本当に死ぬ。

「うう…王様…」

「ん?何だ」

真っ赤な顔で小さく呼ばれ、まだ少し笑いながら、腕の中の少女をのぞきこんだ。

「意地悪、しないで……」

羞恥に潤んだ上目遣い。

「………………」

笑いが引っ込み、紫の目が大きく見開かれた。

ぱっ、と腕が解かれた。

ホッとして、少し距離を取る。ハア…と息をつきながら、パタパタと顔をあおいだ。

少し落ち着いて隣を見ると、今度は王が頬を染めて固まっている。

「?王様?どうし…」

言い終わる前に、くるりと桜に背を向けた。

(くそ………)

どんなにあの娘を自分のいいように扱えたと思っても、たった一言、ほんの少しの仕草で、簡単に手玉にとられる。

くしゃ、とその藍色の頭を、片手が乱した。 

惚れた弱みか。

“意地悪しないで”

はあ…………可愛い。