デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

食事が済んでしばらくして、夕餉の膳を下げに女官がやって来た。

「それでは我が君、私共は本日はこれで失礼させていただきます。すでに外の近衛は警護を始めております」

戸の外で、うやうやしく礼をする。

「大儀であった」

王がうなずくと、静かに戸が閉められた。

しん…と沈黙が降りる。わずかに障子の向こうから、気の早い虫の声が聞こえるばかりだ。

(ここから、王様の寵愛を巡って争いがあったわけかぁ…ドラマの世界みたい)

口に出すとまた嫌な顔をされそうなので、心の中で思うだけだ。

(あんなきれいな人たちがこぞってやって来るんだから、普通嬉しいもんかと思ったんだけどな)

ちらっと隣の美しい人の横顔を見る。

(それとも自分が美人だから、そうでもなかったとか?
…でも誰もいなくなっちゃって、寂しくないのかなあ)

ん?……誰もいない。

桜は今更気がついた。

(そ……そうだ、よく考えたら…こ、この宮には今…)

「…二人きりだな、桜」

さら、とゆるく結んだ髪の一房が解けて、どこか艶っぽい微笑みを浮かべた王が、桜を覗き込んだ。

(ひえぇえ!!)

さささ、とゴキブリよろしくソファの端っこに逃げる。

(そーだよ、なんで気付かなかったんだろ)

急に緊張してきて、体を固くしてうつむいた。