デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

意外なことに、王の夕餉は桜がいつも食べているものとほとんど差はなかった。

「王様だから、もっと贅沢してるのかと思いました」

向かいあって他愛もない話をしながら、桜がそう言うと、王は少し笑った。

「私は空腹感がなくなりさえすれば良いからな。わざわざ私のために別のものを作らせるのも無駄な手間だろう?」

「お好きな食べ物とか、ないんですか」

そう聞かれて、首をかしげる。

「好きな、食べ物……」

思いつかないらしい。

(食べる事に執着が全然ないんだな)

そもそもこの人は物に『好き』とか『嫌い』とかいう感情をあまり感じたことはないのかもしれない。

常に公平。フラット。

それが王として長く統治するコツなのか。

そう思うと、

―――“そなたが好きだ。誰にも渡したくない”

(もしかして、とんでもなく珍しい事なのかな……)

思い出して少し赤面しながら、目の前で淡々と食事をする王を見ていた。

「そなたはあったのか?元いた世界で、好きなものは」

ふいに聞かれた。

「え?うーん、そうですね、たくさんあるけど……やっぱり甘いものは好きかなあ。私の国、ごはんがすごくおいしい国なんですよ」

「そうか…」

「王様も、見つけてみたらどうですか?好きな食べ物ひとつでも。『食べることは、生きること』ですよ」

その言葉に少し驚いたような顔をして、そして笑ってうなずいた。