「では、また明日、我が君からお呼びがかかったら迎えに……来る」

桜の部屋の戸口で、カナンが言った。

何となくまだ言葉遣いに慣れずに、ぎこちなくなる。

「うん。……ふふ、まだなんだか慣れないね」

「……」

「でも、ありがとう、カナン。私ずっと友達もいなかったから、嬉しいよ」

「そうだったのか?」

意外に思い、カナンはまばたきして桜を見た。

「うん…家でもいつも一人だったしね。でも私のそれは、カナンと違って逃げてた自分のせいだから」

すると、カナンはほんの少しだけ、目を優しく細めた。

「……自分のせいなら、自分次第でこれから変われるさ。良かったな」

桜は目を丸くする。そんな風に、思ったことはなかった。

「そっか。そうだね」

嬉しくなって、パッと笑う。するとなぜか、カナンはそっと目をそらした。

「では、私は公宮に戻る…から」

「あ、うん。ありがとう。また明日ね、カナン」

軽く手を振る彼女に頷いて、戸口を閉めた。

宮を出て、ふう、と息を吐く。上を向いて薄く目を閉じ、
肺いっぱいに空気を取り込んだ。

ゆっくりと目を開けて、公宮に歩き出す。

昼過ぎに桜を迎えに来たときよりも、ずっと体が軽い。

“また明日ね、カナン”

すっと心に入ってくる、優しい声。

昨日まで胸に渦巻いていた黒い感情はもうかけらもなくて、心がフワフワするような、くすぐったくてどこか甘い感覚に満たされていた。