デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

「見せてみよ」

「は?」

思わず目が点になる。

(ええ…単なる軽い舌のヤケドなんだけどな…)

だが、王は心配そうに顔をくもらせていた。

「口を、開けよ。桜」

その気持ちをむげにするわけにもいかず、仕方なく少し口を開いて、ちろりと舌を出す。

「…少し、赤くなっているが…ひどいものではないか」

そっと、右の長い指が彼女の口元へあてられた。

びっくりして、固まる桜。至近距離に相手のきれいな顔があり、たちまち緊張して赤くなる。

(ま…まだ……?)

紫色の瞳が、じっとそこを見つめた。

茶を飲んだときに濡れた、厚めの唇。そこから出された桃色の舌の先が少し震えている。

いつの間にか、王の意識はヤケドの赤みではなく、彼女の口元そのものをとらえていた。

「…………」

キシ、と白木の床がわずかに音をたてて、王の体が桜の方へ傾いた事を教える。

魅入られるように、ゆっくりと顔を傾け、彼女の舌先と王の唇の距離が縮まって――――

「あのう……もういいでしょうか……」

ふいに、少し困ったような桜の声があがった。