デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

「近侍に頭を下げてるんじゃないんです。カナンさんに下げてるんです。今王様は関係ありません」

顔を上げて、桜は言った。

「……っ」

ぐっ、とわずかにカナンの顔がゆがんだ。

「私の事を、王にお聞きになったのでしょう?私は卑屈な、汚れた人間です。人だって殺したことがある。あなたの謝罪を受けるような価値はありません」

吐き捨てるように言って、顔をそらした。

「カナンさん。私、カナンさんの苦労は全部分かる訳じゃありません。それに…はっきり言って、カナンさんがどういう人間かなんていうのは、どうでもいいんです」

何と言えばいいか少し考えあぐねて、桜は首をひねる。

「ただ…きっとあなたが傷ついたと思ったから、謝りたいと思った、それだけなんです。許してくれるとは、思わないけど。謝罪を受ける価値がないなんて言わないでください。私、何も出来なくなっちゃうじゃないですか」

困惑の色さえ浮かべて自分を見る桜を、『魔』のように醜悪だとは、もう少しも思わなかった。

たまらず、下を向く。

きっと、この黒髪の娘はわかるまい。

虐げられ、這いつくばってきた人間にとって、自分の言葉がどれほどの魔力を持つか。

胸が震えるほど嬉しいなんて、想像だにしていないだろう。
そうなんだと言われても、心底不思議そうに『え?何でですか』としか言わないだろう。

彼女の言葉は、同情でも媚でもなく、まったくの本心だからだ。