ざわざわと、様々な髪や瞳の色の人々が行きかう。
露店で肉を売る人、見たこともない木の実を売っている店、鮮やかな布を片手に声をはりあげている売り子――
見ているだけで心躍るような光景なのに、桜の心は沈んでいた。
――やっぱり、言葉がわからない…
日本語はおろか、英語や中国語のような響きもまったく聞こえてはこない。
本当に、知らない世界なんだ。
無力感と絶望感で、その場に座りこみたくなる。
そうしないのは、『帰りたい』というギリギリの意志の力だった。
泣きたくなるのを我慢して、桜が出てきた路地のそばでパンのようなものを売っている、中年の女性に話しかけた。
「あの、すみません…」
言葉は通じないけれど、困っていることが伝わらないだろうか。そしたら、この世界の警察や、大使館のような場所に連れて行ってくれるかもしれない…
そう淡く期待して。
