「話しこんでしまったな。午後からは、もっと楽しい話をしよう」
こわれものに触れるように、桜の右手を取った。自らの両手で、そっと包む。嫌悪の表情が浮かんでいないことを確かめて、微笑んだ。
そしてなぜかチラリと戸口を一瞥し、部屋を出ていった。
王が渡り廊下に出て、深宮のほうへ歩いていったのを見届けてから、カナンは隠れていた客用の宮の植え込みから出てきた。
王が政務が終わってすぐに、桜の部屋に行くのが見えて、慌てて後を追ってきた。
また桜が王に非礼をするかもしれないと、戸口の裏で控えていたのだった。
(………)
今聞いた事は、カナンを戸惑わせるのに十分だった。
王の、あんな心もとない、手探りの謝罪など聞いたことがなかったし、和解した時の嬉しそうな声を聞くのも初めてだった。
そして、まさか自分の話が出るとは。
あの忌まわしい思い出を桜に話されているときには目眩がしたし、王都武官になれなかった自分の卑屈さが、きっとあの娘に分かっただろうと思った時には、惨めさで体が震えた。
けれど、あの娘は一体何なのだろう。
他の人間のように、自分の過去を知っても穢らわしいと言わない。
女と関われないことを、冷笑するわけでもない。
それどころか、自分にどう謝っていいかと本気で途方に暮れていた。
自分と桜は上でも下でもない。対等なのだと。だから、どうすれば自分に許してもらえるだろうかと。
熱いものが、胸にこみ上げた。嬉しいのか、惨めなのか、恥ずかしいのかわからない。その全部かもしれない。
そういうふうに、ごく自然に自分という人間を尊重する相手に、まして女性に会ったことがなかった。
何だか大声で泣きたくなって、カナンは唇を噛んだ。
こわれものに触れるように、桜の右手を取った。自らの両手で、そっと包む。嫌悪の表情が浮かんでいないことを確かめて、微笑んだ。
そしてなぜかチラリと戸口を一瞥し、部屋を出ていった。
王が渡り廊下に出て、深宮のほうへ歩いていったのを見届けてから、カナンは隠れていた客用の宮の植え込みから出てきた。
王が政務が終わってすぐに、桜の部屋に行くのが見えて、慌てて後を追ってきた。
また桜が王に非礼をするかもしれないと、戸口の裏で控えていたのだった。
(………)
今聞いた事は、カナンを戸惑わせるのに十分だった。
王の、あんな心もとない、手探りの謝罪など聞いたことがなかったし、和解した時の嬉しそうな声を聞くのも初めてだった。
そして、まさか自分の話が出るとは。
あの忌まわしい思い出を桜に話されているときには目眩がしたし、王都武官になれなかった自分の卑屈さが、きっとあの娘に分かっただろうと思った時には、惨めさで体が震えた。
けれど、あの娘は一体何なのだろう。
他の人間のように、自分の過去を知っても穢らわしいと言わない。
女と関われないことを、冷笑するわけでもない。
それどころか、自分にどう謝っていいかと本気で途方に暮れていた。
自分と桜は上でも下でもない。対等なのだと。だから、どうすれば自分に許してもらえるだろうかと。
熱いものが、胸にこみ上げた。嬉しいのか、惨めなのか、恥ずかしいのかわからない。その全部かもしれない。
そういうふうに、ごく自然に自分という人間を尊重する相手に、まして女性に会ったことがなかった。
何だか大声で泣きたくなって、カナンは唇を噛んだ。
