デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

怒らせるつもりなど、もちろんなかった。

今ここで眠っている女のように、声をかけ、情を分けてやれば皆喜んでいたから。

桜の話は全くの未知で、本当に久々に心がおどった。
遠慮がちだが、宮中の人間は絶対に言わない質問をする。悩みながらも自分に何とか説明しようという表情は瑞々しく、新鮮だった。

自分を王としてよりもむしろ、一人の人間として話をしていたのだと、桜が走り去ってから気づいた。
王や、身分のない国から来た娘にとっては自然な事なのだろうが。

それが、こんなにも嬉しい事だとは。

……悔やまれる。

だから、桜は怒ったのだ。

自分の、王としての傲慢さを押し付けたから。

良かれと思ってした事だが、桜にとっては単によく知らない男に唇を奪われたというだけの事。

「……さて……困った」

ここ何十年か言ったことのない言葉が、王の口からこぼれた。

わずかに、しとねの中で女が身じろぎをした。

起こさぬよう、そっと部屋を出る。

そのまま、女のことは思い出すことはなかった。