デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

とっぷりと暮れかかる空の下、桜の部屋を出たカナンは公宮に向かって大股で歩いていた。

その緑の瞳は、焦点の定まらないまま揺れている。

客用の宮の廊下で夕餉を持った女官とすれ違ったが、今の口論の口止めをする余裕がなかった。

まさかあの女に、自分の傷の痛みを誘発されるなんて。

“ふふふ……くすくす……”

早く、明るい所へ出たい。

暗闇は嫌いだ。
思い出してしまう。あの女たちの声を。

“カナン……あたしたちのかわいい、哀れなカナン…”

白く、忌まわしい手に、捕らえられる前に。

もう4年も経つのに、まだ無数の手が、後ろから迫ってくる。

“ねえ、カナン……”

毎日自分を眺めていた、トロンとした目――――

ハッハッと、浅い息を繰り返す。額には異様なほど汗がにじんでいた。

公宮の裏口が目前になった時、あの黒髪の娘の眼差しが浮かんだ。

“欠陥人間!”

「う…」

グッ、と口元を抑えたが、遅い。

金髪の少年は一人うずくまって、胃の中のものを吐き出してしまった。