デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

「桜様、灯を入れます。失礼します」

返事を待たずに戸を開けた。

寝台の横にペタンと座り、シーツに突っ伏していた桜がハッとして顔を上げた。
そしてカナンを見ると、『うっ……』という表情を浮かべた。
真っ赤になった鼻をすすりながら、顔を洗いに湯殿へ消える。カナンが灯を入れ終わって退出するまで待つつもりなのか、なかなか出て来なかった。

…しばらく、そのままの時間が続く。

ややあって、あきらめたのか桜が湯殿から出てきた。

まだ部屋にたたずむカナンを見て、

「灯、どうもありがとうございます。お疲れ様でした」

言外に退出をうながした。
カナンが厳しく目を細めて言う。

「…本来ならば、あなたは今首と胴が離れて動物の餌になっています。我が君に危害を加えておいて、命があるなど、あり得ないことです」

「………」

「よくよく温情に感謝し、明日からは二度とこのようなことがございませんよう。…まあ、明日以降お召があればの話ですが。出て行かれる準備をなさったほうが、よろしいかもしれませんね」

胸の黒い感情のままさらに言う。

「……そのお美しいお姿をもってして、我が君を籠絡しようとなさったのでしょう?本物の『魔』よりも汚らわしい」

フン、と冷笑した。