「…では、我が君からのお呼びがあった時にまた伺います。それまでごゆるりとおくつろぎください」

また一言も言葉を交わさないまま、カナンは桜の部屋を退出した。

(……結局、何も言われなかった)

追いかけて来たときのあの剣幕からすると、絶対良く思ってないはずなのに。

表情の変化が乏しいから、何を考えているかさっぱりわからない。

首をひねりながら、ソファのようなクッションに身を沈めた。



一方、桜の部屋の戸を閉めたカナンは、淡々と客用の宮を出て、渡り廊下に戻った。

相変わらず口元は閉じられているが、眉間にはシワが寄っていた。

さっき、カナンが表門に出た時には、すでに桜はアスナイとシュリに駆け寄っていた。
遠目からでも、桜と二人が単に仕事としてのつながりだけの信頼関係ではないことが分かった。

武官の二人は、桜と目線を合わせて真剣に何か言っていて、最後にアスナイが彼女を抱き寄せるところを見た。

―――汚らわしい。

心の中で呟く。

どこか嬉しそうに頬を染めて帰って来た桜を見て、一層その思いは強くなった。

異世界人でも、醜くても、女は女だ。

男を貪る、醜悪な生き物。

一刻も早く離れたくて、すぐにこの客室に連れ帰ってきた。