二人と別れ、もと来た道を戻る。

まだ心臓がどきどきと跳ねていた。

笑顔で、「さらいに来る」と言ったシュリ。
右頬に軽くだがキスをしてきたアスナイ。

(シュリさんには…からかわれてるのと……アスナイさんのは、別れの挨拶かなあ……が、外国みたいな感じで……)

恋愛経験どころか恋バナもしたことのない桜の想像は、あさっての方向へ飛んでいく。

“またな、桜。今度会ったら伝えたいことがあるからよ”
“じゃあな。この続きはまた次に会ったときだ”

今しがた、笑顔で帰って行った二人の言葉は、全く見当がつかない。

まだ熱の冷めない顔を、ぱたぱたと手であおいだ。

でも、どうやら自分のことは、全くの仕事としてではなく、少しは親愛の情を持ってくれているのかもしれない。

そう思うだけで、朝からの憂鬱な気分が吹き飛ぶ。

この世界に、初めて味方ができた気がして。

どうにか、慣れない王宮やそこの人間たちを乗り越えていこうと思えた。

だだっ広い階段を、また上っていく。
まだまだ午前中の政務は終わらないらしく、登城する人間はさっきよりむしろ増えていた。

階段を登りきると、大きな表門の端にカナンがじっとたたずんで、桜を見ていた。