都の大路を、ゆっくりと進んでいく。

夜の顔へと変貌しつつある都は、人通りも多く、店や宿が立ち並び、灯がキラキラとともりはじめている。
人々の容姿も、その服装も、キトニで桜が目にしたそれよりもずっと多種多様だった。
楽しそうにおしゃべりする娘たち、声を張り上げる物売り、店の軒先で早めの晩酌を楽しむ男性たち―――

活気があふれ、物があふれ、どこを見ても王都の繁栄を物語っていた。

桜に馴染みのある『都会』とはだいぶ雰囲気が違うが、それでもここはきっと大きな都市なんだろうな、と思った。

そのまま、延々と続く大路をゆく。横に大小様々な道が無数に伸びていたが、二人はひたすら真っ直ぐに馬を進めた。

(いつ終わるんだろう、この道……)

しばらくそのまま進んでいたが、さすがに桜がフードをかぶった首をひねる頃、はるか目の前にひときわ大きな建物とわかる物が見えた。

その周りはこんもりとした木々に囲まれていて、高い屋根も見える。
次第に近づくにつれて、その大きさが桜の眼前に迫った。

(はあ………)

呆れるほど、大きい。

木々の前には堀があるようで、まるで日本の皇居のようだった。そしてその建物は、中国の『紫禁城』のように壮麗な、左右対称の姿をしている。
キトニのように王都の街も石造りで、南欧のイメージがするのに対し、この建物は何となく東洋の印象が強かった。

(でも、うまくバランスが取れてるから、悪趣味な感じは全然しないな)

むしろ、とってもきれい。それが、桜がこの巨大な建物―――王宮に抱いた最初の感想だった。