デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

いつまでも見ていたいのを抑えて、アスナイが桜を呼んだ。

『桜、出発するから、髪を結うぞ』

髪紐を揺らし、手招きした。
ぺこっと頭を下げると、アスナイに背を向ける桜。
手櫛で丁寧に黒髪をすきながら、チラリとシュリを見た。

ムスッと唇を尖らせて、こちらを見ている。
その顔に挑発するような笑いを送ってから、髪紐でキリリと一つに結った。

ふと、そのうなじに赤いミミズばれのような傷があるのに気づいた。

(昨日、獣に引きずられたときにできたのか)

そっと触れると少し痛むのか、桜の頭がわずかにゆれた。

自分をかばってできたその傷に、愛しさがまたつのる。

背中から思いきり抱きしめて、唇を当てたい衝動を、ぐっとこらえた。

その時。

『おーい。もう終わってんじゃねーか。出発するぞ』

不機嫌全開のシュリの声が、強制終了を告げる。

『……チッ……性急な男だ。早死にしてしまえ』

アスナイが睨みつけると、シュリは素知らぬ顔で桜を手招きした。

『桜、今日はこっちだ。乗るぞ。……おい、お前は早く鹿を積め、鹿を』

桜の手を取りながら、アスナイにニヤッとお返しの笑いを向けた。