デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

いよいよ、ただならぬ感じがする。

「ご客人が、もういらっしゃらないということも考えられるのか?」

つとめて静かに聞くと、女官は渋々と言った感じで首を振った。

「いえ……そのようなことはないかと。二つの御膳はお召し上がりになって戻って参りますし、その……お部屋を整えさせていただく時に、女性がいらっしゃった形跡は毎日ございますから」

どうやら、主君は彼女を片時も放してはいないようだ。

まるで影のように、その自由を封じて愛でているのだろう。

アラエは思わずこめかみをそっと押さえた。

王がここまで徹底して、桜を宮の奥深くに囚えているならば、声を聞くことすら難しい。
深宮の中は、近侍といえど許可なく自分は入れないからだ。

(……どうしたものか)

ゆっくりと回れ右をして、もと来た道を戻り始めた。

顎に手を当てて、少しうつむき加減で歩いていったアラエ。
その頭はどうやって桜と一目会おうか考えていたため、柱の陰に隠れて深宮の女官とのやり取りを一部始終見ていた、恋人の存在には気付かなかった。

「……………」

揺れる灰色の瞳が、強張った顔が、自分の後ろ姿を見つめていた事など。

「何、よ………今の」

震える唇から、低い呟きが漏れる。

アラエが、あの深宮付の女官に見せていた顔。
あんな真剣な表情、私にはしない。

そして。

抱き寄せ、襟を暴いて、あんな……あんなところに口付けて。

「アラエ……本当に、深宮付の女官なんかに……!」

グッ、とその愛らしい唇が、憎しみに歪んだ。

「許せない、あの女……!」

身をひるがえし、大股でその場を後にした。