デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

少し厳しい顔をして公宮に戻ってきたアラエ。

残っている仕事を頭の中で確認した。

(………もう少し、動けるな)

そう思い、今度はその足を女官たちの詰め所の方角へ向けた。

詰め所とは言っても女官たちは全員で何百人といるので、大きな建物が公宮に隣接している。そして勤務する場所によって細かく部屋も分かれていた。

途中、適当な女官を捕まえて深宮の女官の部屋を教えてもらうと、早足で歩く。

桜の様子を知っているとすれば、深宮の女官しかいるまい。
そう思い、めったに詰め所などに現れない近侍に驚く彼女らの目線を、意に介することなく真っ直ぐに教えてもらった部屋へ急いだ。

珍しく気がせいていたため、そして頭の中は桜の事で占められていたため、ちょうど公宮付きの大きな部屋の一つから出てきた、彼女に気付かなかった。

今日の早朝まで同じ寝台の中にいた、美しい身代わり人形に。

驚きにその灰色の目を見開いて、普段なら絶対にこんなところに来るはずのない恋人を見つめた。

アラエ、と声をかける間もなく、彼は目の前を通り過ぎていく。

「…………」

睨まれるどころか、気付かれもしなかった。
自分に会いに来たわけではない。

また、胸の奥に怒りがゆっくりと鎌首をもたげた。

唇を噛んで、一緒に部屋を出た後輩にとげとげしく言った。

「先に行ってて。私まだやることがあるわ」

「え、でも……もう時間がありませんよ」

「うるさいわね、あなたが上手く言ってくれればいいでしょ!たまには役に立ってよ!」

吐き捨てて、アラエの後ろ姿を追いかけた。