デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

誰もいないことをそっと確認して、アラエは裏口から渡り廊下へ出た。

深宮の女官や文官たちと鉢合わせたら面倒なので、急ぎ足で歩く。
少し息が上がりながら、客用の宮の廊下へ入った。

一つ息をつき、そっと戸を叩く。

「桜様……おいでになられますか」

静かに戸の向こうに問いかけたが、しんとして物音一つ聞こえなかった。
少し迷ったあと、細く戸を開く。

部屋の中は薄暗く、なんの気配もしなかった。

(………いない)

やはり、女官たちが言っていたとおりだ。

(となると、後は深宮しかない)

アラエは少し考えた。

ふと、もうすぐ宮中は昼の食事の時間であることに気づく。

(………)

顎に添えていた手を外して、宮の出入り口まで出てきた。
その横の、大きな植え込みにすっぽりと身を隠し、目の前の渡り廊下を見つめる。

じっと雨暑期の蒸し暑さに耐えていると、公宮の方から女官が二人、やってくるのが見えた。

(深宮の女官だ)

目をこらすと、少し大きな箱を二つ持っている。

昼の膳を入れる箱だ。

それを見たアラエは、桜が深宮にいることを確信した。

(間違いない……だが、なぜ一度もここに戻っていないんだ?初めて我が君のお部屋に泊まった時などは、ちゃんとこちらに帰ってきていたのに)

やはり、あの娘の性格を考えるとおかしい。


……帰らないではなく、帰れない?


また、ぞくりと背筋が冷えた。

(我が君……一体、あの娘をどうなさっておいでなのです)

眉をひそめて深宮を見つめた。