デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

ふ、と女官の目線が伏せられた。

「………相変わらず人の世は、煩わしいことばかりでございます」

「へ」

ポカンとする桜に言う。

「誰それの心を推し量るだの、傷つけるだの……。人の心のように、頼りなくうつろうものにすがるから、そんな事に汲々として、気づけば老いてしまっている」

「えっ…」

「ここにいる女官は、みな人の世を捨てて、唯一確かな神に命を捧げて平安を得た者たち。あなた様とは相容れぬかと」

「………」

お前は私達とは違うと素っ気なく突き放され、絶句する。

「不確かなものを捨て、確かなものを信じれば、こんなに心は静か。欲もなく、醜い感情もない」

「…………」

「あえて申し上げるなら、私どもの心を占めるのは神と神児様のみ。あなた様が何をどう思われようと、一切の関心はございません。ですから、気になさるだけ無駄というものでございます」

静かな狂信者の言葉に、桜はゾッとした。他人に対する一切の感情を捨て去った女たち、それがこの宮の女官なのか。

他人に対する悪意や欲望は、しばしば恐れの対象になる。けれど、それすらも一切ないということが、こんなに不気味だとは。

だめだ、私には理解できない。

桜は混乱しながらそう思った。