デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

部屋の戸を開けるが、当然そこの住人はいない。

だが、桜のあの優しくて少し甘い匂いが、そっと漂っていた。
その体温まで感じられそうで、王は目を細め、ほうっと息をついて中に入る。

いつも彼女が座っているソファの背もたれを、歩きながらひとなでした。

寝台の方に目を向ける。
すでにきちんとベッドメイキングをされた後だったが、枕元の小さなサイドテーブルの上に、いつもかぶっている外出用のケープと、白いストールが置いてあった。

「…………」

惹き寄せられるように、そちらへ足を向ける。

静かに白いストールを手に取った。
確かピンク色のワンピースを着る時に、桜がいつも羽織っているものだ。

スキあらば自分が取り去ろうとするのを、いつも赤い顔で押しとどめようとする。
その様子を思い出し、ふっと優しい微笑みを浮かべた。

ゆっくり、片手で持ったその薄布を鼻と口へ充てがう。

たちまち、あの愛しい娘の肌の匂いが鼻腔を満たした。

まぶたを閉じれば、その清い微笑みが浮かぶ。
トクリと心臓が一度音を立てて、彼女のいろいろな表情を思い出した。

揺れる紫の瞳がまた薄くのぞいて、ふと下を見る。

きちんとシワ一つなくのばされたベッドのシーツに、薄手の夏布団がかかっていた。