デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

次の朝、執政の間は殺伐とした空気に満ち満ちていた。

この間までの輝く微笑みが嘘のように、氷のような無表情で次々に指示を出す王。

粗相をしたら殺されると本能が警告を鳴らしている執政補佐官たちは、黙って必死に筆を動かす。

が、やはりスピードが速い。

その忙しなさと異様な緊張で、懸命に帳簿をつけていた文官の一人がカタン、と筆を取り落とした。

ピタリと王の動きが止まり、目線だけを上げて彼を見る。
その氷点下の目線に、ひっ、と背筋がのびて、あわてて深く礼をした。

「も……も……申し訳ございませぬ、我が君…………」

「一々その位で礼を取らずともよい。さっさと手を動かせ」

抑揚のない声で言い、また冷たく目を伏せる。

仕事の精度はいつもと全く変わらないし、実際に理不尽な叱責などはないが、その雰囲気は殺気だっている。

(誰か、我が君のご不興を買うことをしたのか?)

文官たちはお互いに目配せし合うが、やっぱりお互いに自分ではないと首を振る。

(やはり…あれか、昨日の)
(御寵姫が、我が君を振りきって神宮に行かれてからだ)

じゃーどうしようもないじゃないかよ、と絶望に皆目元を歪めた。

(御寵姫……お早くお戻り給われ)

神にでも祈るように、文官たちは心で桜に懇願した。