デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

アラエの心中など露知らず、桜がふとその黒い瞳を向ける。

「アラエさん。昨日夜に何かあったんですか?」

「え?」

「いえ、夜に王様が呼び出されるって珍しいなって」

「………」

「で、今日もお仕事が長引いてるって……」

疑問を口にする桜に、にっこりと笑顔を作った。

「何でもございませんよ。ただの偶然です」

「本当に?」

真っ直ぐじっと見つめられ、笑顔のまま一瞬言葉に詰まった。

「はい」

………この娘に、本当のことを言ってくれとは言われたが、これは仕事だ。

近侍としての矜持を胸に、アラエはうなずいた。

「そうですか……わかりました」

顎から手を外し、桜はニコっと微笑む。

「アラエさん、お茶いかがですか」

「いただきます」

すぐにうなずいた。

桜が部屋に回れ右をした時、空気が動いて部屋の中の匂いが鼻に届く。

その優しく甘い匂いに、心臓がドクリと音を立てた。

(どんなに腕のいい調香師でも、この匂いはきっと出せないな)

イメージではない、彼女自身の本当の匂い。

………欲しい。

もうごまかしようもなく、そう思う。だが。

(この匂いは、我が君のものだ。私はせいぜい、他の女にあの偽りの香りをまとわせて、自分を慰めるしか出来はしない)

フン、と自嘲した。