「……何だ。止める気などないぞ」
桜の首元から、熱情に染まった王の顔がわずかに上げられる。
「そ、そうじゃなくて、あの……」
「?」
「ええと……『王様を喜ばせたいの。だから今日は……教えて?あなたの好きな……』」
確かに『素直に聞いて』るけど、『好きな……』何なんだろう?肝心なとこが訳わかんないやと思いながら、まあルネが教えてくれたんだから間違いないかな、と丸暗記したそのセリフを、王を見つめて言う。
あと、言いながら何かこれをしろって言われたっけ、と思い出しながら、つっと彼の唇を人差し指でなぞった。
刹那、その紫の目が見開かれる。カッとその面が赤く染まった。
(あら?)
意外な反応に首を傾げる前に、真っ赤な顔で睨まれ、顎をつかまれた。
「お前……どこで、誰からそんな事を覚えた」
「へ、あの…」
「言え。返答次第では許さん」
また、不穏な空気が流れ出す。
ええ、何で!?と混乱しながら、桜は慌てて白状した。
「いや、あの……フラウさんとルネさんが、こう言ったら王様が喜ぶ事がわかりますよって……教えてくれて……私、聞かなきゃ分からないから、だから……」
もごもごと恥ずかしそうに言う彼女。
王は思わず呆気にとられた。
「フラウとルネとは誰だ」
「私のお部屋についてくれている女官さんです。いつもお世話になってて」
自分を喜ばせたい一心で、仲のいい女官に聞いたのだろう。
(………………くそ……)
まさに今、喜んでいる。どうしようもないくらいに。
安堵と、喜びと、愛おしさが混ざって、また顔が緩みそうになる。
「王様?どうしました?」
のぞき込もうとした彼女を、赤い顔のまま今度は少し乱暴に押し倒した。
(女官とはな。あれこれとこの娘に吹聴しているのだろう、全く……)
困ったものだ。
もっとやれ。
