デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

「桜」

凛とした、深くよく通る声がその場の空気を変えた。

ハッとして二人が前を向くと、深宮の出入り口の階段に、王が出ていた。

「我が君!」

あわててアラエが礼をする。

まさか、主君が自らこの娘を外で待っているとは思わなかった。

その寵愛の深さを思い、伏せた顔の眉を寄せる。

優しい微笑みを浮かべて、桜のもとへ。

「あ……私、遅くなっちゃいました?」

少しあわてる彼女に、首を振る。

「いや、そんな事はない。私が早く会いたかっただけだ」

そう言うと、淡く頬を染めた桜の肩を抱く。

「行こう。……おいで」

そっと深宮の中へいざないながら、礼をとるアラエを肩越しに振り返った。

「アラエ。我が寵姫の帰りはいつになるか分からぬゆえ、待たなくて良い。このまま戻り、残務をこなせ」

「は………」

少し困惑する彼に、不気味なほど静かに言う。

「早めに仕事を終わらせて、汝も汝の愛しい女のそばにいてやることだな」

その言葉のすぐ後に、出入り口のドアが閉まる音がした。