デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

「え?」

「私があなたにイライラしないために」

「あっ……はい」

「カナンの話を、私の前でしないでください」

目元を染めながらも、固い表情と声で言うアラエに驚いてまばたきする。

「へっ……?」

「あなたがどう思われようと、今連絡係のお役目を任されているのはこの私です。私の代わりはいないとおっしゃったが、その割にそうやっていつまでも前任者の事を口に出されるのは、近侍としていい気は致しません」

幼稚で単純な感情を、もっともらしい言葉で覆い隠して告げた。

「あっ、そっか……すみません」

素直に頭を下げる桜を、赤銅色の瞳を揺らして見つめた。

そしてそっと桜が顔を上げたとき、またあの香りが、ゆるく彼を牽制するように二人の間に流れた。

少し下唇を噛んで、また口を開く。

「それから、もう一つ」

「は、はい」

「その香りは……おやめください」

「え?」

自分では自分に付いている香りなど分からないのだろう、腕や髪をあわててふんふんとかいでいる。

「その香りは、あなたがつけて良いものではございませんし……第一、似合わない」

「は、ハァ」

困ったように頭をかく桜を、自分のバカさ加減にますます顔を赤くして睨む。

いつの間にか、深宮が近くなっていた。