デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

ふと、それを見つめる。

(本当に、見事なまでの黒髪……)

陽の光で、見たことのないようななめらかな艶が生まれる、その色。
地上では忌むべきものとされ、自らもそう思っていたが、アスナイは初めてそれを美しいと思った。

と。

ザア!と強い突風が吹いた。

「うぶ…!」

自分の髪が顔にへばりつき、おかしな声をあげてしまう桜。
手を離す勇気はないため、ふるふると頭を振って顔の髪を払おうとする。

その時、アスナイが自分の髪を結わっていた紐をほどいた。両手を手綱から離し、脚だけで巧みに馬を操りながらそっと目の前の黒髪を整える。
ぎこちなくも優しい手つきに驚き、思わず振り返る彼女に、わずかに目線をそらした。

『…前を向いていろ。結べない』

人差し指で前を指し、前を向かせてから手櫛で整え、器用に長い髪を一つに結わった。

耳の後ろや首筋に手の感触を感じて、ボフンと赤くなる桜。
「………」
しばらくパクパクと水から出された金魚のようにしていたが、

「あ……りがとう、ございます…アスナイさん」

小さく頭を下げて言った。

『……いや』

分からないくらいにわずかに目元を染め、この優しい声が聞きたかったのだと、アスナイは気づいた。