デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

「怪我はともかく、もう一つは心配しすぎです」

小さく吹き出して笑う桜の後頭部を、厳しい顔のまま見つめた。

その紫の瞳は、桜にいつも見せるそれと違って、暗く冷たく止まっている。

……王という立場上、私はこれまでこの娘を表立って特別扱いすることはなかった。

だが、図らずも『魔』の襲撃の一件で、臣下たちは私のこの娘に対する全てを悟ったに違いない。
だからそうおいそれと手を出す人間はいないだろうが。

それに、私の寵姫ということが皆に知られた以上、宮中の面倒ごとに桜が巻き込まれかねない。

この、嘘のつけない娘が。

(……守ってやらねば)

真綿でくるむように。翼の下にかばうように。

そして、誰にも愛させてはならない。

「もう、離さない」

そう言って、また後ろからその身を抱く。

少し背中を震わせたあと、彼女は押し黙った。徐々に耳たぶを赤くして王を振り仰いで、少し睨むような目線を向けた。

「ていうか、むしろ王様の方こそ……きれいな女官さんにフラフラしないでくださいね」

桜にしては思い切ったことを言ったのだろう、少し自信なげに、その声は小さく震えていた。

王は思わず口をつぐんで、くすぐったいような、意地悪な微笑みを向けた。

「それは……そなた次第だな」

「えっ?」

「私がそなたを想う、せめて半分なりとも私のことを思ってくれれば、私はさびしくはない。だから、もっとずっと、私を好きになって欲しい」