いつもの通りの朝。
だが執政の間の中はある一種異様な雰囲気だった。
王の側に控える文官たちが、書類を持ってせっせと歩き回っていたが、またお互いに目配せをしあっていた。
(我が君のご機嫌が………めちゃくちゃ麗しい)
にっこりとした美しい笑顔で、請願書を手渡す文官達に「ありがとう」と声をかけている。
いつもからしたら不気味なほどの豹変ぶりに、皆おかしな汗をかいていた。
今日の昼からの時間のことを知らない彼らには、無理はないのだが……。
気の毒なのは王の裁定を書き留める執政補佐官達で、その殺人的なスピードに、みな目が血走って必死に手を動かしている。
「わ、我が君………恐れながら………今しばし、別室にてご休憩を」
時間をかせがないと、このままだと皆腱鞘炎になってしまう、と補佐官長がたまらずひざまずいて請願した。
「何故」
「申し訳もございませぬ。臣らが無能ゆえ……我が君の英明さに能わず……」
要はあなたのスピードについていけないから、追いつくまでちょっと休憩しててくれという事なのだが。
「何を申す。予は一人、汝ら執政補佐官は十人近くいるではないか」
笑顔を崩さず、ヒラリと手を振る。
「は……なれど……」
額の汗をぬぐう補佐官長を見つめ、一つうなずいた。
「仕方ないな。………筆を持て」
命じて、赤い墨と筆を持って来させた。
「予も汝らの仕事を手伝ってやる」
「えっ!?いえ、そんな、我が君にそのような!」
ギョッとする彼らに、またにーっこりと微笑んで手で制した。
「さっさと済ませるぞ。汝らのためにも、予のためにもな」
言うが早いか、滑るように筆を動かし始めた。
ギリギリだった事務が、嘘のようにはかどる。
が。
(…………今度は仕事がなくなった……)
執政補佐官達は、がっくりと机にうつむいた。
