「いやいや、だって王様……」

焦って挙動不審に手を空中で動かす桜。

「問答無用。早く」

「はぅ……」

絶世の美人が、自分の顔の数センチ前だ。

(な、慣れるのかなぁ、これ………)

頬を赤くしながら、きゅっと目をつぶる。

(緊張するよぉ)

その表情を、王が愛しげに見つめているとは露知らず、桜は必死に自分に暗示を。

(これは王様じゃない、クマのぬいぐるみだ、テディベアだ……)

かつて自分の部屋のベッドに置いてあった茶色のクマを思い出す。

(これはくま くま くま……)

何か前、そういう歌がなかったっけ?と訳の分からないことを考え、覚悟を決めると。

そっと、クマにキスをする。

ごく軽いそれはすぐに終わって、桜は唇を引こうとしたが。

いきなり両手で耳から後頭部のあたりをつかまれ、深く口づけを戻される。

「んっ!」

思わず目をむくと、そこにあるのはやっぱり茶色のテディベアなんかではなく、紫の瞳を細めて、その顔を染めながら自分を見つめる王の顔。