デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

「時々、そんな衝動に身を任せてしまえたらいいのにと思うことがある。何も考えず、世間体も仕事も忠義も捨てて、お前とどこか遠くで二人だけで暮らしていけたらと」

理性的な彼にそぐわない言葉に、桜は驚いた。

「だから……あっさりそれを行動に移せるあのバカが、少し羨ましい」

もそ、と背もたれから身を起こし、桜を見つめて微笑んだ。

「アスナイさん……!」

たまらず、桜はアスナイの身を抱きしめた。

「アスナイさん、ごめんなさい………!ありがとうございました。もしアスナイさんが、私のことを嫌になっても、思い出になって埋もれてしまっても、ずっと私は……アスナイさんのこと、大切で、大好きです」

その行動に目を見開いて、桜を見つめた。

「忘れないで。どんなに時間が経っても、あなたは私の思い出に埋もれたりなんかしませんから」

「…………っ」

紺の瞳が大きく揺れる。

生まれて初めてと言っていいくらい、我を忘れて他人を抱きしめた。

我慢も、恥もなく、震える手もそのままに。

何度も彼女の名を呼びながら、最愛を手放す苦しさに顔を歪めて、その白い肩に顔を埋めた。

ああ、こんな鮮やかで、狂おしい時間はきっと最初で最後だ。

そう思いながら。