デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

ああ、桜は変わった。

アスナイはそう思った。

あの、出会ったばかりの頃の、卑屈に自信なげに揺れて伏せられていたあの怯えた表情は、もうない。

揺るぎなく、しっかりとこちらを見返している。

その凛とした顔は、一つの迷いもない選択をした女性の美しさだ。

(酷い女だ、お前…………)

フッ、と短く笑って、アスナイは腕を解いた。

(振っておいて、ますます惚れさせるなんて)

はーぁ、と盛大にため息をついて、ボスッ、と背もたれに身を預け、その形のいい顎を上げて天井を見た。

「アスナイさん……?」

「……シュリの事、聞いた」

ぽつんとつぶやくように言った。

「あ………」

「お前をさらっていこうとしたんだって?……バカな奴だな」

「…………」

片腕で目元を覆いながら、アスナイはまた苦く笑う。

「だが………その気持ちはよくわかる。俺も同じことをしたかもしれん」

「………」

「だが、俺はあのバカと違って失敗なんかしなかっただろうけどな。王都の大門が開かないからって、のんびり街に一泊なんかしない」

低い声で言う。

「多分、大門の衛兵を斬り殺してでも王都の外に出て、馬を飛ばしていたさ。役目も、身分も、全部捨てて」

「アスナイさん……」