デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

桜が王宮神処の一室を出たのは、それからしばらくしてだった。

何しろ担ぎ込まれた時にはもう虫の息だったので、神官の神力をあらん限り使ってようやく一命を取り留めたほどだったから、目を覚ましたあとも部屋を出られる状態になるまで少しかかった。

神力による治療が終わった後も、なかなか目を開けない彼女から、王は離れようとしなかった。

「恐れ……ながら、ご客人はもうほぼお命が無い状態でございました……ゆえ」

その年老いた額に玉の汗を浮かべながら、力を使い切った神官が、それでも穏やかに言った。

「お命はつなぎとめました。しかし御目を覚ますかどうかは……。それほどに、危ないご容態であられました」

「………ならば、神児を引きずり出すまでよ」

据わった目と、低い声で言う。

その異常とも取れる言葉を聞き、王の桜に対する全てを理解した神官は、ふうっ……と深い息をついてからひざまずき請願した。

「……なにとぞ、それは今しばらくお待ち下さりませ……ニ、三刻お待ちになり、ご客人のお気がつかれなければ、私めが神児様に要請致しますゆえ………」

冷たい瞳で、しばらく老神官を見た王は、

「一刻だ。それ以上は待たぬ」

そう言って、神処の部屋に桜とこもったのだった。

誰にも触れさせまいとするように。