デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

……くら。桜。……桜!」

母の声が、いつの間にか若い男性のそれになった。

「………?」

ふと気づくと、今の今までいたはずの家のキッチンではなく、真っ白な部屋の天井、そして自分を必死に見つめる、紫の目が見えた。

なんだか眩しくて、視界は薄ぼんやりとしている。

(……お母さん………?)

いない。

体が重い。鉛のように。さっき家にいた時までの軽さが嘘みたいだ。

眉をわずかにしかめていると、目が少しずつ光に慣れ始めた。

ゆっくりと像を結ぶ、目の前の美しい人の顔。

心に思うだけで胸が温かくなる、大好きな人。

「……おう、さま……?」

思ったより全然声が張れずに、桜は少し戸惑った。

「……桜。…………桜!!」

目が見開かれ、かすれた声が震えたあと、その顔が泣き顔のように歪み、すがりつくように王は桜を抱きしめた。
はっきりと震える腕で、浅い息をしながら。

「良かった………良かった…………桜っ……」

藍色の髪が、桜の首筋をくすぐる。

そのいい香りをかぎながら、桜はわずかに微笑んだ。

「ただいまです、王様……」