デブスの不思議な旅 ~恋と変と狂愛?と~

やっと住民達の波を抜けようとしたその時、ついに近衛の眼前までやってきた『魔』の姿が目に映った。

「……?なんだお前は?避難するなら向こうだぞ」

王を囲む若き近衛の一人が怪訝そうに声をかけた。

「あ……だめ、その人は」

震える唇で声を絞り、逃げて、と叫びたいが、動揺がそれを許さなかった。

「おい、聞いているのか。ここにおわすのは我が君だ。お前が近づいていい御方ではない。あちらへ行け」

その場から動かないフードの人物に、少し苛立った様子で
カチャ、と剣を鳴らしながら言う。

ニヤ、とその青白い口元が嗤った。

「逃げ………!」

なおも進みながら、夢中でかすれる声をあげたが。

次の瞬間、『魔』の長い腕が振り上げられ、その強くて長い爪が肌を裂くおぞましい音があがった。

まるで噴水の様に首から血をほとばしらせながら、声もなく倒れて、生命の最期の痙攣を繰り返す近衛の若者。

「うわあぁーっッ!!」

いきなりの事に、周りにいた臣下が目をむいて、恐怖の叫びが上がった。

その一瞬、走る動揺に、近衛の輪が大きく乱れた。