桜が顔を洗い終わった頃、宿の部屋のドアがノックされ、別の部屋に泊まっていたシュリが顔を出した。

「準備できたか」

「はい」

「………ん。じゃ、お前を王宮まで送ってくから」

静かに笑って、シュリは桜を手招きした。

「はい………」

今更ながら、胸が痛む。

そんな彼女の様子を少し笑って見たあと、クシャ、とその黒髪をなでた。

「心配しなくても、ちゃんと送り届けるよ」

「ち、違います、あの……!」

ぱっと顔を上げて瞳を揺らす桜に声を立てて笑ってみせる。

「わーかってるって。さ、早く行こうぜ。王都にいて、まだこうやって追っ手にも捕まってないってことは、お前がいなくなったのは王にはバレてないってことさ」

それを聞いて、桜は急いでうなずいた。

なんとしても、見つからずに部屋に帰らなきゃ。

絶対、シュリさんを捕まらせたりしない。どんな事をしても。

シュリの夏用のマントを借りて、フードをかぶる。

朝の光が眩しい、そして誰一人として外に出ていない、不思議なほど静まり返った王都の街の裏路地を、シュリの馬が進み始めた。