遠くの光にふれるまで






「丙副隊長、瀬井です。お客様をお連れしました」

 瀬井さんが戸を数度ノックし返答を待つと、中からの「入れ」の声。

 ばくん、と。ひと際強く心臓が鳴った。

 懐かしい声。ああ、あのひとだ。


 少し俯き、乱れる呼吸を深く吸って吐いて、意を決して顔を上げる。

 開いた戸の向こうを、瀬井さん越しに見る。
 まず重なった段ボールが見えた。年季の入った木製のデスクも。その上に重なる大量の書類と、お酒の瓶も。

「どうぞ、お入りください」

 瀬井さんが横に退いてわたしを中に促すと、デスクで書類に目を通す男性が見えた。

 ああ……。あのひとだ。

 あの頃とちっとも変わらない。くしゃっとした黒髪で、切れ長の目。整った顔をした、近年稀に見るイケメン。
 ひのえさんだ……。


 客人が何も話さないのを不思議に思ったのか、ひのえさんがようやく顔を上げる。
 そしてわたしの姿を確認すると、目を少しだけ見開いて、固まったのだった。

「……ご無沙汰してます、ひのえさん」

「……」

 返答はない。

 ひのえさんの無反応に、わたしの隣に立っていた瀬井さんが緊迫した雰囲気を纏ったのが分かった。実は不審者だったのでは、と思ったのだろう。

「ああ、違うんです瀬井さん、落ち着いてください。怪しい者ではありません。十八年ぶりにお会いしたので、忘れられてしまったのかと」

「ああ、いえ、疑っているわけではないのですが……」

「いやいや分かりますよ、その雰囲気! お願いですから抜刀しないでくださいね! わたし根っからの文系で、武術の成績最悪だったので瞬殺されます……!」

「ま、まさかそんなことはしませんよ! いくら血の気の多い天使部隊とはいえ、ちょっと怪しいだけの、しかも院の先生を斬ったら、どんな罰を受けるか」

「でもやっぱり怪しいって思ったんですね……」

「それは、その……丙副隊長のご様子を見ると、少し……」

 ここでようやくひのえさんが「おい、瀬井」と口を開いた。