遠くの光にふれるまで






 門に「七番隊隊舎」と書かれた大きくて古めかしい表札を見つけ、深呼吸をして建物を見上げた。
 武家屋敷を思わせる荘厳な造りに、一気に鼓動が速くなる。
 この場所に、ひのえさんがいるんだ。

 でも、昔の雰囲気を、と思って着て来たこの服は、物凄く場違いなのではないだろうかと不安になった。
 まあ、ここまで来て着替えに戻るという選択肢は、もはやないのだけれど……。


 ちょうど中から出てきた、短髪で少し日焼けした爽やかな感じの男性に「ひのえ副隊長はいらっしゃいますか?」と尋ねると、彼は「副隊長なら執務室ですが……」と。若干怪訝な顔つきで答えてくれた。

「……失礼ですが、どちら様ですか?」

 やはり不審者だと思われているらしい。せめて和装なら、親近感が湧いただろうか……。

「藤宮と申します。以前ひのえ副隊長にお世話になりまして、そのお礼に伺ったのですが」

「そうですか……。僕は副長補佐の瀬井と申します。ご案内しますね」

 そう言って瀬井さんは、今出て来たばかりのお屋敷――七番隊舎に逆戻り。有り難いけど申し訳ない。


 廊下を歩きながら、改めてフルネームと勤め先を伝え、隊士の皆さんにと持参した菓子折りを渡すと、瀬井さんもようやく表情を崩してくれた。

「先ほどは失礼な態度を取ってしまい申し訳ありません。丙副隊長は女性から人気がありますし、特に最近は熱狂的な方も訪ねて来るので、つい……。ですが話を聞くと藤宮さんは真面目な方のように感じましたので、ちゃんと執務室にご案内しますね」

「わたしがもし不審者だったら、ちゃんと連れて行ってはもらえなかったのですね……」

「ここは天使部隊の隊舎ですからね。万が一不審者だった場合、それに応じた対処はできます」

「あ、はは……」

 まあ確かに、このひとたちはみんな帯刀していた。
 それでなくても武道の達人揃いだろうし、一般天使じゃあ太刀打ちできないだろう。だからもし平静を装って隊舎に入り込み、突然豹変したとしても対応できるってことか。
 大人しくしていよう……。


 隊舎は想像よりもずっと広く、一度じゃあ覚えられないくらい廊下を曲がった。やっぱり副隊長ともなると、簡単に辿り着けないような部屋にいるのかもしれない。
 途中何度も隊士の方に擦れ違い、みんな瀬井さんに挨拶したあとわたしをきょとん顔で見つめていた。
 やっぱりこの武家屋敷風の建物と袴姿の人たちの中では、ブラウスとスカート姿はよく目立つ。次来る機会がもしあるなら、和装で来ようと誓った。


 そしてようやく、ひとつの部屋の前に着く。
 戸には「副隊長室」という札。

 今朝からずっと速かった鼓動がさらに速く、激しく鳴り始めた。