遠くの光にふれるまで





 そんな十六年を過ごし、卒業。
 卒業までに教育課育成係での研修を終わらせ、この春から母校の教員となった。


 最初十六年と聞いたときは、そんなに長い間……と思ったけれど、あっという間だった。これが「天使の時間」かと実感した。
 これから数百年、数千年生きる天使から見れば、十六年なんてほんの一瞬の出来事なのだ。


 そして現在。
 休日を利用して、天界欲界区の東、石畳の道を歩いている。
 天界欲区の北と東は立ち入り禁止区域に指定されていて、天使のみ入ることができる。わたしもこの間までは入ることも近付くこともできなかった。

 ようやくそこに立ち入ることができるが、見知らぬ土地であることに違いはない。
 ただでさえ天界は広いし、自分の職場と居住区以外の場所はあまり行くことがない。特に十六年間学校の寮で暮らしていたから、地理を知ってはいても、行ったことがある場所は極めて少ないのだ。

 そこを行く理由はたったひとつ。


 わたしは今日、ひのえさんに会いに行く。


 本当は卒業後すぐに動き出すつもりだったのに、しばらく待つことになったのは、藤原さんから「丙の副隊長昇進が決まりそうだから、正式に決まるまで待て」とのお達しがあったからだ。
 部隊の中で特に肩書きのない隊士の元へ行っても、上司の目があって上手く時間を取れないかもしれない。だったら執務室を与えられる副隊長になってからのほうがいい、とのアドバイスだった。

 わたしは素直にそれに従って、ひのえさんの副隊長昇進を待った。
 そしてようやく数日前、正式に就任したという話を聞いて、今日のことを決めたのだった。



 この十八年、わたしの容姿は変わらなかった。上手く霊力を保っていられたらしく、むしろ十八年前より見た目は少し若返っている。

 今日は少しでも昔の雰囲気に戻りたくて、人間界からの輸入品を扱う店で、あの頃着ていたような服――白いブラウスに薄い水色のカーディガン、ネイビーのフレアスカートを買って着た。
 学生時代短く切っていた髪もここ一年ずっと伸ばしているから、あの頃よりは短いにしろ、雰囲気は随分戻っているはずだ。

 それもこれも、今日のため。十八年、この日を待っていた。


 ひのえさんは、わたしを憶えていてくれるだろうか。ちゃんと思い出してくれるだろうか。十八年も経ったのだから、わたしのことなんか忘れて新しい相手がいるかもしれない。

 それでもいい。ちゃんと会って、あのときのわたしの気持ちを伝えたい。
 そのために、わたしは天使の道を選んだのだから。