遠くの光にふれるまで






 一年待って受験をし、無事天使になるための学校に入学できた。

 同期のほとんどが元々天界生まれの子たちで、わたしのように人間界出身者はほんの一握り。
 人間だった頃の知識が全く役に立たず、天使としてのあれこれを、とにかく必死で詰め込む毎日。
 全寮制のため、敷地内の寮で暮らしていたけれど、ほとんどそこにいた記憶がない。それくらいずっと自習室や図書室、職員室に入り浸っていた。


 最初の六年で、天使の歴史や言語は勿論、六界全てのことを詳しく学び、武術や神通力の基礎、茶道や華道や書道、天使連盟に加盟している各国の歴史や言語。音楽では雅楽や管弦楽も教わった。

 七年目からは、天使科、獄卒科、十王科、天人科の中からひとつ選び、より専門的なことを学ぶことになる。天使科は言わずもがな。獄卒科は地獄界などで働く獄卒を、十王科は十王や庁の職員を目指す者を育てる。天人科は所謂音楽科で、雅楽隊や音楽隊志望者が選択する。わたしは勿論天使科を選んだ。

 十年目からは選択科目が始まって、進路に応じてそれぞれ選ぶ。
 十三年目からは実習が増え、卒業後すぐに働けるように鍛えられた。


 確実にひのえさんに会うためには、天使部隊に入ればいい。
 そんな安直な発想で、選択科目で剣術や柔術、格闘や戦闘訓練を選んでみたけれど、成績はいまいち。
 藤原さんや坂本さんには「天使の素質がある」と言ってもらえたけれど、天使部隊の素質はなかったみたいだ。

 先生に説得されて、十一年次のときに選択科目を変えた。

 天使部隊への道が絶たれてからは、色々な免許や資格を取りまくった。

 最初は「どこの部署でもいいから天使として働けるように」と思っていたけれど、途中からは知識が増えていくことを普通に楽しんでいた。
 もしわたしに天使部隊の素質があったのなら、きっと指導係や送迎係、秘書やデザインなどの実習は受けなかっただろう。

 年に一回学内剣術大会があって、来賓の中には天使部隊の方たちもいたから、もしかして……と期待したりもしたけれど、ひのえさんの姿はなかった。
 そんな話を藤原さんにしたら「坂本から聞いたけど、おまえ剣術の才能ないらしいな。一勝もできない姿を見せたあと再会するよりいいじゃねえか」と言われてしまった。それもそうだった。

 そういえば何度か、告白されたこともあった。
 天使を志しているとはいえ、感情があることに変わりはなく、ラブレターをもらったり校舎裏に呼び出されたり……。人間界で学生をしていたのはもうずっと昔の話だから、懐かしさでちょっとテンションが上がってしまった。
 勿論すべてお断りした。


 卒業後の配属先は、有り難いことに同期の中で一番最初に決まった。

 十六年次の初秋、先生方の薦めで、教員としての研修を受けることになったのだ。

 突然面談室に呼ばれて、何事かと思えば先生方六名がぞろぞろとやって来て、机に書類やパンフレットを並べ「藤宮は教員に向いている」と言った。「一緒に働こう!」「今研修を受ければ春にはここで働けるよ!」「必要な書類は全部用意してあるから!」と、もはや有無を言わせず、だった。

 藤原さんへの恩を返すため、卒業後はき組に配属希望を出そうと思っていたからとりあえずお誘いは保留にして、本人に相談した。
 そしたら藤原さんは珍しくきょとん顔を見せたあと「教員連中は必死だな」と言ってくつくつ笑い始めた。

 どういう意味か聞くと「毎年優秀な生徒たちは取り合いになる。だから最近は早いうちから勧誘して内定出すんだ」と説明してくれた。

 先生方のお誘いは嬉しいけれど、わたしは藤原さんに恩を返さなくては。

「うちはいいよ。少人数でもなんとかやってる。それに武術の成績がぱっとしなかったおまえが入っても、たちの悪い霊を捕まえらんねえだろ」

「確かに武術の成績は悪かったですけど……」

「だからおまえは教員として後進の育成に励んで、優秀なやつがいたらうちに回してくれ」


 それは、藤原さんなりの優しさなんだと思った。
 昔の口約束に囚われず自由に進め、と。

 だからわたしは頷いて「今度菓子折り差し入れますね」と返した。