遠くの光にふれるまで





 悪い知らせが届いたのはその数日語。受験のための知識や情報を教える教育施設、所謂予備校へ通うための書類を揃えているときだった。

 滞在する秦広庁の宿舎に、藤原さんからの手紙が届いたのだ。

 内容は、ひのえさんがわたしのことを聞くため閻魔庁に乗り込んで、往来で付き合っていたことを暴露した、というものだった。
 それによって天部衆や十王が招集され、ひのえさんの処罰が決まったらしい。
 閻魔王や秦広王、藤原さんが「ごく短い期間の付き合いで、藤宮若菜の死因には関係がない」と主張し、極刑は免れたけれど処罰はされてしまったらしい。

 そして天部衆や十王にもわたしの名前が強く印象付けられてしまったため、予備校には通ってもいいけど、今期の受験は控えたほうがいい、とのこと。


 わたしは手紙を握り、茫然としていた。
 色々な感情が、頭の中をぐるぐる回っていた。

 ひのえさんがわたしを探してくれていた。会いに来ようとしてくれた。まだ会いたいと思ってくれていた。

 嬉しい。でも、そのせいでひのえさんは処罰されてしまったなんて。

 わたしのせいでひのえさんが処罰されるなんて、そんなの嫌だ。謝りたい。助けてあげたい。でも、今のわたしにできることは何もない。わたしは天界行きが決まった、ただのひと。天使でも人間でもない。無力を実感して、悔やんだ。

 あのひとと対等の存在になるためにはまず天使にならなければならない。でも、今期の受験はできない。最短十六年で会いに行けるはずだったのに、すでに十七年に増えてしまった。

 それなら今、藤原さんか坂本さんに頼み込んで、一瞬でも会いたい。今すぐ会いたい。

 腰を上げかけて、寸でのところでとどまった。

 今ここで早まったことをして、本当に一生会えなくなってしまったら元も子もない。あれだけ優しくしてくれた藤原さんたちにも迷惑がかかる。
 それよりもちゃんと天使になって、十七年後正式に会いに行ったほうが良いのではないだろうか。


 ずきり、と。胸が痛んだ。

 もうわたしの身体の中に腫瘍はないし、あちこち転移もしていない。呼吸も楽だし身体も痛くないというのに……。
 生きていた頃、ひのえさんのことを考えると幸せだった。幸せだった日々を思い出して心が温かくなった。ひのえさんとの幸せな暮らしを想像したら楽しかった。

 なのに今あのひとのことを考えると、胸が痛む。


 この状態で、十七年を過ごさなくてはならないと思うと気が滅入る。

 早く会いたい。会って気持ちを伝えたい。

 わたしは手紙に「思い出さなくてもいいから忘れないで」と書いた。
 日々の中で、わたしを思い出してもらわなくてもいい。けれど十七年後、ちゃんとわたしを思い出してもらえるだろうか、と。急に不安になった。

 今は生きていた頃と何ら変わらない容姿をしている。霊力さえ保っていれば、何年だってこの姿でいられるらしいけれど……。わたしは十七年後も、この姿を保っているのだろうか。


 この不安を紛らしてくれる友人たちは、もうここにはいない。
 三百六十度どこを見ても知らない世界に、わたしはひとり。ひとりで頑張っていくしかないのだ。


 わたしは手紙をぎゅっと握り締め、蹲って額を床に擦り付けた。

 何も伝えられないことが、こんなにもつらいとは思わなかった。
 何もかも信じることしかできないのが、こんなに不安だとは思わなかった。