遠くの光にふれるまで






 十一月に入ってすぐ。わたしは死んだ。
 やっぱり次の年を迎えられなかった。


 現世を離れた魂は、藤原さんたち天使課の手によって、三途の川のほとりまで転送してもらう。
 藤原さんのジッポに吸い込まれたわたしも無事にそこまで辿り着いて、わたしと同時期に死んだ人たちと一緒に、案内係のひとたちから今後の予定と道のりの説明を受けた。

 どうやらこの後、六界のどこへ行くか決めるため、最大で十人の王と会うらしい。王たちと会い、生前のあれこれを振り返りながら、罪の重さに応じて行き先が決まるのだ。

 十人の王、なんて響きがちょっと恐いけれど、案内係のお姉さんが「三途の川を渡る船はちょーっと揺れますから、気をつけてくださいねぇ! それではまずは奪衣婆たちの身体チェック、張り切っていきましょーう!」とまるでアトラクションの説明をするようなテンションで言うから、気が抜けてしまった。
 他のひとたちも元気良く「はーい!」と返事をするから、気分はもうすっかりアトラクションだ。


 奪衣婆と呼ばれる割烹着姿のおばちゃんたちの身体チェックを受け、順に船に乗って川を渡る。
 そしてそのまま順路通りに進み、第一の王秦広王がいる秦広庁に辿り着いた。

 どうしても閻魔王のイメージがあるから、てっきり他の王も貫禄たっぷりで恐ろしい形相なんだと思ったら、意外にも秦広王はスマートな青年。

 しかも気軽な様子で「うん、特に悪行は働いていないし、その霊力で数々の霊や天使を助けたみたいだね。天界でいいんじゃないかな」と。あっさりわたしの行き先が決まった。

「今後は手続きが完了するまで秦広庁が管理する宿舎で過ごすことになります。くれぐれも悪さをしないよう。それが発覚し次第天界行きは取り消され、前科を増やして初江王の元へ向かってもらいます。分かりましたね?」と言うつり目の補佐官の方が迫力があった。



 秦広庁を出ると、入り口に藤原さんがいた。
 藤原さんは何でもお見通しという顔で「いくぞ」と促す。

 素直に従って向かった先の門にはでかでかと「閻魔庁」とあり、三途の川からずっと緩んでいた気が引き締まった。

 秦広王は予想と違ったけれど、閻魔王といえばあの恐ろしい形相の絵や木像が残されている。
 きっとイメージ通りの恐ろしいひとだ。

 と思ったのに……。

「きみが藤宮さんね。藤原から話は聞いてるよー。藤宮と藤原ってどっちも藤が付くからごちゃごちゃになっちゃいそうだよね、若菜ちゃんって呼んでいい?」

 派手な赤い着物姿で長身。色が白く、すっきりした顔立ちのイケメン。にこやかな表情。
 秦広王以上に軽い感じのひとだった。

 じゃあ現世に残る資料は一体何なんだ。まるで違うじゃないか。


 面くらっていると閻魔王は、わたしの表情からそれを察したのか「俺は第六十九代閻魔王の坂本。十王ってのは多忙だから、みんな数十年から数百年で引退しちゃってねぇ」と説明してくれた。

 どうやら襲名制らしい。だから秦広王もあんなに気軽な感じだったのか。