遠くの光にふれるまで





 そこまで考えていなかったわたしに、藤原さんは珍しく表情を崩し、困ったような笑みを浮かべる。無表情のSっ気組長も、笑うと可愛い。わたしより数百歳も年上のひとに「可愛い」は失礼かもしれないけれど……。


「仕方ない。藤宮には色々世話になってるからな。特別に教えてやるよ。向こうで丙と会う方法を」

 そう言って藤原さんはグラスを置いて、身体をこちらへ向けた。

「まずひとつは、送られた先でただひたすら丙を待つ。おまえが六界のどこに送られるか、それは十王の判断次第だが、とにかくそこで迎えを待つ。一般人を伴侶に迎える天使もごく稀にいるからな」

「……」

「ただしそれは何年、何十年、何百年かかるか分からない。丙次第だ」

 何年、何十年、何百年……。途方もない話だ。人間として二十八年しか生きていないわたしにとって、想像もつかない未来の話。
 そしてひのえさんがわたしを探しに来なければ、それは叶わない。
 あのひとはわたしを、探してくれるだろうか……。


 少し不安を感じたわたしを見て、藤原さんが「もうひとつは」と続ける。

「おまえが天使になることだ。天使になれば、丙と対等の存在になれる」

「天使に……」

 天使への勧誘は、以前も受けた。そのときは本気で考えもせず、冗談のひとつとして受け取り、笑った。
 でも本当に、わたしが天使になることは可能なのだろうか……。

「どうすれば、天使になれるんですか……?」

「方法はひとつ。そのための学校に行って卒業すればいい。それだけだ」

「そんなに簡単に入れるんですか?」

「入学試験がある。試験にはある程度の素質と学力が必要だから、現世で言う予備校に通えばいい。手続きは俺がしてやる。もしすぐにでも準備を始めたいんなら、死後すぐ十王に話しをつけてやる」

 十王……というのは、閻魔王とかそういうひとたちのことだろうか。本当にこのひと何者なんだ……。あまりのことにしばし言葉を失っていたら、今まで黙っていた梅田さんが「藤原さんと今の閻魔王様は学生時代の同期で、お友だちなんですよ」と説明してくれた。

 今の閻魔王? 同期でお友だち? ますます分からない。

「素質は充分だ。霊力があり、それをコントロールできて、優しい心と強さを持つ。あとはおまえの学力次第」

「は、はあ……」

「ただし入学から卒業までには十六年かかる。万が一留年すればもっとだが」

 十六年。それは小学校入学から大学卒業までと同じ年数だ。
 無事に入学し、留年せずにちゃんと卒業できたとしても十六年。わたし次第でもっとかかる。

 でも、六界のどこかで、来るかも分からないひのえさんを待ち続けるよりも、ずっと確実な気がした。
 天使になれば、ひのえさんと対等になれる。わたしからひのえさんに会いに行くことができる。


 少し悩んで顔を上げ、真っ直ぐに藤原さんを見据えて、頷いた。