遠くの光にふれるまで




 近所のスーパーに買い物に出かけると、電信柱の横に蹲る少女を見つけた。

 泣いているみたいで、迷子かと思って声をかけると、少女は驚いた顔をしてわたしを見上げる。
 顔色が白い。足が少し透けている。ああ、この子は幽霊だったんだ。

 幽霊じゃあ交番に連れて行けないし、どうしようか悩んでいると、少女はさらに号泣して、わたしの足にしがみついてくる。さらにどうしような状況になってしまった。

「ああ、ええと、泣かないで、どうしたの? お腹痛い?」

 少女は答えない。ますますどうしようと悩んでいたら「若菜さん?」と、聞き覚えがある声がした。

「と、とうごくん!」

 近所にあるかかりつけの病院の息子さんだった。ますます悩ましい。幽霊の少女が泣いている、なんて言われても、とうごくんだって……。

「どうしたんすか、その、足の……」

「え? とうごくん、見えるの?」

「若菜さんこそ」



 この先の交差点で事故に遭って、その短い生涯に幕をおろした少女は、事故の拍子に大切にしていたぬいぐるみを無くしてしまったらしい。
 とうごくんと一緒にぬいぐるみを探して、少女が亡くなった交差点に供えてあげた。
 あの世にはぬいぐるみは持っていけないらしい。

 少女は最後にぬいぐるみを抱き「お兄ちゃんお姉ちゃんありがとう」と笑って、駆けて行った。
 その先にいるのは、黒いスーツに身を包んだ男性。その男性の元へ辿り着くと、少女はすうっと静かに消えて行った。
 とうごくんによると、あの黒いスースの男性は天使。魂を無事にあの世に送り届ける仕事をしているらしい。天使にも色々な仕事があるらしい。


「……とうごくん、天使のこと知ってるんだね」

「若菜さんこそ。天使が見えるなんて初耳っすよ」

 じゃあひのえさんのことも知っているかもしれない。でも聞くのはやめておいた。
 付き合っているなんて話になったら、馴れ初めも聞かれるに決まっている。小さい頃から知っている近所の子に、横断歩道のくだりはちょっと話しづらい。

「最近目覚めたとかじゃないですよね?」

「ああ、うん、小さい頃から。もう二十数年」

 ならいいんです、ととうごくんは笑って、思い出したようにわたしを見る。

「若菜さんこれから暇っすか? 今日葵や山吹が来て、みんなでたこ焼きしようってことになってるんですが、良かったら」

 断る理由もなかった。
 自宅でたこ焼きなんて滅多にないことだし、とうごくんのお友だちである葵ハナちゃんや山吹春一くん、とうごくんの妹のあかりちゃんにも会いたいし。

 それでのこのこ付いて行った結果がこれだった。



「なんで千鳥がここにいるんだよ!」

「なんだ燈吾、私がいたらいけないのか? 別にお前に会いに来たわけではない。こちらに用があって来たら、偶然葵に会って誘われたんだ。たこ焼きといううまいものを作るからと」

「まあまあ燈吾くん、千鳥ちゃん、仲良くたこ焼きくるくるしよう」

 燈吾くんのご実家、篝火家にいたのは、黒い袴姿の女の子。腰には刀を携えている。どう見てもひのえさんと同じ格好。ということはこの子も天使部隊に所属しているのだろうか。

「あー……若菜さん、これ千鳥。見えてるよね?」

「ああ、うん、見えてる」

「千鳥、これ若菜さん。雑貨屋で働いてて、たまにうちの病院に来るんだ」

 紹介されると千鳥ちゃんとやらはにっこり笑って「よろしく」と握手を求める。
 それに応じて握手をする。小さな、でも温かい手だった。

「若と呼んでいいか? 私のことは千鳥で構わない」

 話し方も、古風だった。