遠くの光にふれるまで





 持ち物を全て没収され、俺は閻魔庁舎の地下にある牢に入れられた。

 薄暗くてじめっとしてカビくさい、普段あまり使われていないであろう雰囲気の場所だった。

 そこで膝に顔を埋めて数時間過ごすと、慌ただしい草履の音が聞こえ、それが徐々に近付き、そして牢の前で止まった。

 ようやく顔を上げると、そこにいたのは鬼の形相の大男。

「……はなむしろ、たいちょう……」

 数時間ぶりに出した声は、驚くほど掠れていた。

 鬼の形相の大男――俺が所属する天使部隊第七番隊の花筵隊長は、拳を握り締め、わなわなと震えていた。


「丙、おまえ何やってんだ、阿呆が」

「……すんません」

「すんませんで済むわけねえだろ。大罪だぞ」

「……分かってます」

「分かってねえ! 人間と付き合うっていうのは軽い気持ちでできることじゃねえんだ! なんでおまえは……」

 花筵隊長は牢の柵に掴みかかり、こちらを覗き込むように顔を近付け一瞬口ごもった後、苦しそうな声でこう言った。

「なんでおまえ……俺に一言相談しなかったんだ……」

「……え?」

「相談してくれりゃあ力になれた。他の誰でもない、俺なら……これからどうすればいいのか知っていたのに……」

「……どういう、ことですか……?」

 花筵隊長は横目で牢番の姿を確認し、少しだけ声を落とす。

「俺の嫁とは、人間界で知り合った。それを誰にも知られず、数十年そばに居続け、彼女が死んでこっちに来たあと再会して、結婚したんだ。もうずっと昔の話だ……」

 驚いた。まさか花筵隊長が、噂に聞いたひとだったなんて……。そんな話は今まで一度もしたことがない。
 隊長はちゃんと隠しきった。掟の穴を、見事に利用したのだ。

「無事に、再会したんですね……」

「おまえよりずっと長生きしてるし、俺は元々修羅界出身だからな。協力者ならあちこちにいる。それこそ六界全部にな。だからおまえが相談さえしてくれれば、隊長として先輩として、協力できたんだ。なのにおまえは先走りやがって……この阿呆が!」

「……すんません」

 花筵隊長は牢の柵にもたれかかり、深いため息をつく。長いこと隊長の下にいるが、こんなに落胆した顔を見るのは初めてだった。