遠くの光にふれるまで






 恋人ができた。
 所謂一目惚れだったんだと思う。けど、そういうんじゃなくて……なんていうのかな、魂が震えたというか。ああ、あのひとだ、と思った。

 ただしそれは人間ではなく。天使。



 ひのえさんとお付き合いすることになった次の次の日。

 出張帰りの店長が、深刻な顔でわたしをバックヤードまで連れ出した。留守中のことで何かお叱りを受けるんだと思って身構えていた、ら……。

「若菜ちゃん、あなた……」

「は、はい……」

「聞いたよ! すっごいイケメンが、会いたくて死んじゃいそうって訪ねて来たって! 恋人ができたんなら言ってよ、水くさいなあ!」

「は、はい?」

「名前は? 年は? 馴れ初め聞かせてよ! 店長命令!」

 どうしよう、すっごい鬱陶しい……。店長だけど殴りたい気分……。ていうかバラしたのは十中八九クルミちゃんだ。口が軽い。

「や、別にお話するようなことは何も……」

「またまたあ、どこで知り合ったの、そんなイケメンと」

「……横断歩道です」

「ん?」

 店長の頭の上に、クエスチョンマークが並んだのが見えた。

「え、そんな出会いあるんだ……。漫画みたいね、ラブコメの」

 まあ確かに。横断歩道で信号待ちの最中に目が合って、渡っている最中にキスをしたって……。冷静に考えれば現実離れしているかも。ていうか恋人が天使という時点で現実離れしているけど。


 店長からの尋問はしばらく続いたけれど、たいした情報を与えることはできなかった。
 だって、わたしはまだよくひのえさんのことを知らないもの。
 年齢だって、見た目は若いけれど、実はだいぶおじいちゃんみたいだし。仕事は天使部隊の副隊長らしいけれど、実際ひのえさん以外の天使を見たことがないからよく分かっていないし。こっちに来るのには手続きが必要になるみたいだから、頻繁に会えるわけでもないし。

 欲しい情報がなにも得られなかったため、店長は不貞腐れたような顔をして、お土産を置いて、さっさと帰って行った。



 ひのえさんに会える目安は、一週間から半月に一度になるだろうと思われた。
 職種は違えど「副」の仕事量はなんとなく分かるし、それでも月に数度はこちらに来てくれると言うのだから、有り難い話だ。

 帰り際、ひのえさんはしつこいくらいに「浮気すんなよ」を繰り返していたけれど、そんな相手いるわけがない。

 特にティーン向けの雑貨屋で働いていたら、異性と出会うチャンスなんて、それこそ合コンに行くだとか、同じショッピングモールのテナントのスタッフさんと出会わない限りないと思う。
 横断歩道で出会い頭にキスなんて、今時少女漫画でもあまりないだろう。

 浮気というならひのえさんのほうだ。
 女性の天使は勿論いるし、何なら部隊の中に何人もいるらしいし、あの容姿に副隊長という役職。モテないはずがないと思う。