遠くの光にふれるまで








 どんな状況であれ、朝はやってくる。

 彼女からの手紙を一晩で読み終え、憔悴しきった俺にも、朝はやってきた。

 いつもと同じように執務室で書類に目を通すが、何も頭に入らなかった。
 デスクの引き出しには、彼女ほどではないが、分厚いカンニングペーパー。それを何度も手に取り、何度も後悔していたら、仕事が全く手につかなくて外に出た。



 彼女の魂は人間界を去り、今はこちらの世界に来ているだろう。
 でも、会う術はない。
 六界のどこへ送られるか分からないからだ。
 もし天界に送られていても、一般人と天使の居住区は違う。そしてこの広大な土地で、何のヒントもなく彼女を探し出すのは難しい。奇跡や運命を信じられるほど、単純な世界ではないのだ。

 でも幸い俺たちには時間がある。もし六界のどこへ送られたのか知ることができたなら、迎えに行けるかもしれない。天使が一般の魂を伴侶に迎えるということも、できないわけじゃない。数十年前に誰かがそれをしたと、聞いたことがあった。

 だからたとえ何十年、何百年かかったとしても、彼女を探し出して気持ちを伝えたい。


 そう思って空を仰いだ、そのときだった。


「ええ? き組の藤原組長が?」

「藤原組長とその人間がどういう関係だったかは分からないけどね。とにかく秦広庁で行き先が決まったあと、藤原組長と一緒に閻魔庁に行って、何かを話していったんだって。閻魔庁の職員から聞いたから確かだよ」

「秦広庁で行き先が決まるのは珍しいことじゃないけど、その後閻魔庁に行くなんて。そんなに特別な人間だったのかしら」

「特別な人間には見えなかったって聞いたけど。ごく普通の女の子だったって」

「でもそんなこと今までなかったから、気になるよねえ」

 往来を行く女たちの話が聞こえ、その瞬間、彼女の顔が頭をよぎった。
 俺の直観が、それは彼女だと言っていた。

 次の瞬間、今朝からずっと止まっていた俺の脳が、勢い良く動き出す。

 藤原組長はき組、き組の担当は彼女が住んでいた地域。彼女の手紙には藤原組長のことは一切書いていなかった。でも俺たちの姿が見える彼女は、藤原組長とも顔見知りだったかもしれない。


 気付けばそのふたりに詰め寄っていた。

「その人間の名前は? 容姿は? どんな様子だった?」

 ふたりは戸惑い、顔を見合わせる。

「あ、あの、直接見たわけじゃないので……名前は確か……ふじのだか、ふじおかだか……」

「藤宮……藤宮若菜だな!?」

「あ、ええ……確かそんな名前だったと……」

 やっぱりそうだ。彼女は今この近くにいる。ちゃんと来ている。なぜかは分からないが、き組の組長と一緒に閻魔庁に行っている。
 そして行き先が決まったとしても、まだ移動はせず、閻魔庁の待機施設で過ごしているかもしれない。

 戸惑うふたりに礼を言って、俺は走り出していた。

 冷静さなんて、昨日からとっくに失っていた。