基本的に、天使の寿命は長い。
 霊力が衰えない限り、何百年でも何千年でも生きる。

 天使部隊に所属していても、死ぬほどの大怪我なんて滅多にない。

 俺は人界出身で、その前は現世に生きる人間だったから、人の死は見て来ている。
 だけど天界生まれの宿木にとって「死」はあまり身近なものではない。
 だからこんなに動揺し、取り乱すのだろう。


 宿木をどうにか宥めて立たせると、やつの目がデスクの上の紙束を捉え、それが彼女に向けての手紙であると気付いた瞬間、絶望に満ちた顔でまた泣き崩れてしまった。


 俺は宿木を宥めて励まし続けたが、彼女の死を悲しんでいないわけではない。
 もし宿木がこんな風に泣き崩れなければ、もし宿木が彼女に会いに行かなかったことを責め立てていたら、泣き崩れるのは俺だった。
 彼女の誕生日を待たず早く会いに行けば良かった、と。この数ヶ月のことを思い返し、冷静さを失うのは俺だった。

 彼女が死んだ。

 彼女と出会い、付き合い始め、傷付けて離れるまで。ほんの一ヶ月の間に起こったこと。
 天使の時間からすればそれは、長い人生のほんの一瞬のことだ。
 それでも彼女を失うということは、想像を超える悲しみがあった。

 天使と人間が恋仲になることは禁止されている。それはかつて天使と恋に落ちた人間が、次々に命を絶ったことが原因だ。
 ただしその掟には穴がある。命を絶たせなければいいのだ。そうすれば何年でも何十年でも共にいることができる。彼女が老い、寿命を全うし、魂がこちらに戻るまで。傍にいることができる。
 死期が迫り、もし彼女が望むのなら、こちらでも一緒にいる方法を教えるつもりだったのに。

 まさかこんなに早く、そのときが来るとは。

 誰か彼女に、その方法を教えたやつがいたか? 俺との未来を考えてくれたやつがいたか?
 もしかしたら、ずっと会いに行かなかった俺は恋人として不十分と判断されていたかもしれない。
 だったらきっと、この広い世界で二度と彼女に会えないだろう。
 人間と同じだ。死が永遠の別れになる。


 時間を軽く考えていた自分に腹がたったけれど、その感情をどこに向けていいのか分からず、苦笑した。